繊細な線と、透明度の高い色彩で描かれる萩森じあさんのイラストには、心の奥底に沈めた憂い、悲しみ、情動を呼び覚ます力がある。彼女が描く絵は、まるで「死」を秘めながらも「生」を叫んでいるようだ。
これらの作品には一体、どんな想いが込められているのか。今回は萩森さんの人生観を踏まえつつ、イラストに込めた祈りを伺った。
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きっかけは「女らしく」への違和感
現在の生き方を選んだ理由。それは、萩森さんが小学生の頃から、感じていた違和感にある。
女らしさを求められたり、容姿で人を比較して優しさの配り方に区別がつけられるような学生生活。それは萩森さんにとって、苦痛なものだった。
だから、自分を貫き続けた。しかし、社会はマジョリティであることを求めてくるため、根が真面目な萩森さんは心の中で違和感を募らせていき、息苦しくなっていったそう。
もっと頑張らなきゃ。周囲の期待に応えなきゃいけない。そう思い続けているうちに、痛感した。自分は組織に属することが合わない人間なんだ、と。
心に積もった違和感を「絵」でアウトプット
会社に利益を生み出すために頑張るよりも困っている人を助けたり、人の痛みに共感したりしたい。でも、資格を持っているわけではないから、福祉に関わる仕事に就くのは難しい…。だとしたら、自分には何ができるだろう。そう考えた末にたどり着いたのが、「イラストレーター」という職業だった。
きっかけは、一冊の書籍。そこに記されていた文言が、心にすっと染み入った。
もともと、大学で社会学を学び、スポットが当たりにくいマイノリティの問題に関心があった萩森さんは自分が味わってきた違和感を、「絵」で表現し、伝えたいと考えるようになった。言語化できずに心の中で積もっていった涙を、1枚のイラストに込めて発信すること。そのアウトプットは、いつしか萩森さんにとって大きな価値や意味を持つものになっていった。
イラストで誰かの涙に寄り添いたい
しかし、制作活動を続けるうちに自分の中で、少しずつ考えが変わっていった。自分以外の誰かのためにも「絵」を描きたいと、強く想うようになったのだ。
1枚の絵を描くことに、萩森さんは心を捧げることにしたのだ。
そんなまっすぐな思いを持つ一方、萩森さんは自身のことを「友人が少ない」と自虐する。
「誰かを傷つけたくないし、傷つけられたくもないから距離を置いてしまう。」そんな理由には、ひとりの人としっかり向き合いたいという本音が込められているようだ。それはまるで、「人間が好き」だと叫んでいるかのように思えて、胸がきゅっと締め付けられた。
マジョリティのふりをしながら組織に属するよりも、マイノリティのまま生きながら誰かの痛みに寄り添う人生を選んだこと。そこには強い意志と想いが込められているからこそ、彼女のイラストは多くの人の心を震わせるのだろう。
萩森さんは今後、当メディアでも漫画やイラストを通して、誰かの痛みや叫びを表現してくれる予定。「正義を振りかざしたり、議論や正論を押し付けたりするのではなく、誰かの心に寄り添いたい。」そんな願いを込めながら描かれる繊細な作品には、傷ついたあの日に流せなかった涙を優しく受け止めてくれる温かさがある。
取材協力:萩森じあ(@jirujiaru826)
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