拝啓、モラハラなお父様へ

私が生まれた時、あなたはどう思いましたか。嬉しかった?それとも失敗したなって思った?かわいそうって思った?だから、私にだけ優しくしてくれたのかな。その同情的な偽りの愛は、氷のようだった。私はまだあなたを愛せない。でも、毒親とひとくくりにすることもできないんだ。

拝啓、最低で一番愛してほしかったお父さんへ

あなたに好かれたかった。本当の意味で愛されたかった。でもあなたが怖かった。罵声が飛び交う家の中には、酸素なんてなかった。あなたが帰ってくると、空気が重たい。いっそ帰ってこなければいいのにって何度、思ったことだろう。

洗面所に髪一本でも落ちていたらダメ。電気の消し忘れは罵声の対象。分かってるのにプレッシャーがかかると、守れない。

すると、あなたの鋭い言葉が飛んでくる。「お前はバカか」と。「とろくさい」と。「そんなんじゃ、世間に出た時に笑われるぞ」と。「俺が死んだら親のありがたみが分かる」があなたの口癖だったけど、私はいまだに死後、ありがたみを見つけられそうにない。ボロクソな言葉で心を何度も殺されたから。私はダメな人間なんだと思う種となった人だから。

食事の時間が大嫌いだった。無言で食べるご飯は味がない。父と向かい合わせの席で、少し斜めを向きながら。そのクセは今でも治ってない。父を前に食べると、私はいつも斜めを向いてしまう。

愚痴を聞かされ続けるご飯。怒鳴り声が飛び交う時間。ため息が、おかず。それが嫌で、イヤホンをして食べた。それでも心は辛かった。だって、目には光景が入ってくるから。

耳をいくら塞いでも目は塞げない。見たくない現実が毎日、眼球に映し出されていく。もう、いっそ何もみたくないと思った。何も聞きたくないし、無理に笑いたくもない。なのに、笑わなきゃいけなかった。家の中での私はピエロだったから。明るくいなくては、余計に家族の重荷になる気がしたから。きっとそこには、障害者として生まれたという負い目があった。

誰かの裏に見え隠れする父親の残像に震える自分が嫌いだ

心が死んだのは、本屋の駐車場で殴られた夜。夜遊びをする私だけが悪いと言わんばかりの顔で、パーではなくグーを突き出したあなた。浮き彫りになった問題だけ照らされて、私は悪者になった。その過程など、すっぽりなかったことにされて。聖人君子な顔をした親が目の前にいた。助けを求めても、「自業自得」で包まれて、はいお終い。私の声なんて、初めから誰の耳にも届いてない

こうなったのは誰のせい―?そんな議論は無駄だと知っていたから、もう悪者のままでいいと思った。何も聞いてくれないのも、私が悪いだけ。いつもそう。それでいいや。すべて面倒だ。ああ、早く死にたい。消えたい。ずっと、それだけ考えていた。

殴られたあの日以降、記憶がない時期があった。知らない男と微笑むプリクラを見て、この人は誰だろうと思う。そこに映っているのはたしかに自分で笑っているのに、相手が誰なのかまったくわからない。その瞬間、何をしていて、どうやって離れたのかも覚えていない。自分が何をしていたのかも全く記憶がない。もしかしたら解離ってこういうことなのかもと、ぼんやり実感した。

あれから時が経って、モラハラなあなたと同じ敷地内の別宅で過ごしていても、いまだに私はあなたが怖い。実家に行った時に罵声を聞くと、それが自分に向けられているものではなくても自宅に帰って泣いてしまうほど、まだ怖い。昔はもっと感情を無にできたのに。そう考えた時、もしかしたら、やっと普通の感情表現に戻れたのかもしれないと気づく。

父親でなくても大きな声が苦手で、背後から話しかけられるのが苦手な自分は情けない。誰かの裏に見え隠れする父親の残像に震える自分が嫌いだ。

あなたは、一度でも私の頭を撫でてくれたことあったかな。私にはそんな記憶がないよ。触れられなかったのかな。それとも、触れたくなかったのかな。そんなことを思うほど、私はあなたの子どもとしての自信がない。私はあなたの子どもとして、ちゃんと受け止められていたのだろうか。そんなことを悩むほど、私たちの親子の絆は脆い。

一番愛してほしかった最低で父親には直接言えない本音が、心に眠り続けてる。この愛の処理法を、これから見つけていけたら…。「恨む」でも「避ける」でもなく、なにか適切な表現法を見つけたい。あの人の命が尽きるまでに。

1 COMMENT

とらじ

読ませて頂きました!
涙しかありません

体験した人にしかわからない、深い深い心の傷・・
しかもその傷っておっしゃる通り、何かがあると痛みだすのですよね・・(´;ω;`)

私もたくさんの傷を抱えて生きております。
時間が風となって傷を吹き飛ばしてくれるといいです☆

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